研究室紹介

 地球は他の太陽系天体と異なり, プレートテクトニクスと花崗岩の形成を特徴とします。また, 地球は生命の存在が知られる唯一の星です。惑星スケールの生命と地球の相互作用を, 生命誕生当時の地球や火星などの天体を対象に含めて研究を行っています。特に力をいれてるのは, 現在の地球上の知られざる生命や元素濃集を理解するために, まだ未開のフロンティアである「深海」と「地底」に潜水艇や地下研究所を用いて直接アクセスし, 採取した試料を調べて実態解明しています。また, 残りの3大フロンティアである「宇宙」に行って, 将来の地球外生命探査を担う人材を育成しています。

 プレートテクトニクスと花崗岩の形成は, 日本やその周辺に燃料や鉱物資源をもたらします。海底資源が注目されてますが, 近海では海底熱水鉱床, マンガンクラスト, およびメタンハイドレートなどが豊富です。これらの鉱床の生成には, 海洋プレートの沈み込み, それに伴う島弧の火山活動ばかりではなく, 微生物活動などの様々な要因が関係していると考えられていますが, そのプロセスの多くは未解明な現状です。我々が暮らす地球の数多くの謎を明らかにするために, 地球科学が得意とする固体分析技術, 生命科学が得意とするゲノム解析技術を融合して, 最先端の科学データを提供する技術と共に, 一流の国際誌に論文掲載するために必要な能力を身につけるための指導に力をいれています。

 これまでの20年以上に渡る「知的好奇心探求型の研究」から得られた最新の科学的知見を活用して,「課題解決型の研究」にも取り組んでいます。具体的には, 炭酸カルシウムに有害なサイズの微粒子を封じこめてより安全なサイズにする技術で特許出願しました。また, 地面より下の地盤中で微生物による炭酸カルシウムの形成を人為的に引き起こし、自然災害や環境汚染の軽減や資源回収に応用するための技術でも特許出願予定です。これらの技術が必要とされている現場で, 実証試験に取り組んでおり, できるだけ近い将来に研究を社会に還元することを目指しています。

 

1.  光合成に依存しない深海と地底に生息する生命の生態と代謝の解明

光合成で作られた有機物や酸素の届かない岩石内部は, これまでの常識では考えられない生命に満ち溢れることが明らかになりつつあります。特に, 光合成生物誕生前の地球環境に類似する深海や地底では, ゲノムを解読しても謎だらけの始原的な原核生物が生態系の主役として活動しています。このような環境でも増殖できる生命は, 火星や氷衛星でも生息ができる可能性があり, 生命の起源や地球初期生命を考える上でも重要です。

キーワード:極限環境生物, 生命の起源, 地球外生命探査

 

2.  急激な地球温暖化の海洋生態系への影響と貧酸素水塊形成要因の解明

現在の地球温暖化は, 気温と海面温度の上昇, 氷床の融解による海水準の上昇だけでなく, 栄養塩に富む深層海水の湧昇により貧酸素水塊が拡大しています。海洋生態系への影響は将来予測が困難で, IPCCの第5次評価報告書でその不確実性が指摘されてます。最も気候変動に敏感に応答する海域の一つである半閉鎖的な日本海の海洋堆積物に残る化石DNAと微化石を調べて, 1万年前の急激な温暖化が海洋生態系に与えた影響を詳細に復元し, 将来予測に役立てます。また, 1万年前を足がかりに氷期・間氷期サイクルの始まった更新世まで遡ることを目指します。

キーワード:地球温暖化, 海洋生態系, 化石DNAの分子系統学, 有機地球化学, 古気候・古海洋

 

3.  化学合成巻貝の細胞内共生と革新的生物進化の研究

インド洋と西太平洋の深海底熱水噴出孔は, 化学独立栄養細菌を細胞内に共生する巻貝が密集し, 暗黒生態系を支配しています。鉄の鱗や炭素固定経路の異なる共生細菌の獲得等, 通常の海洋無脊椎動物には見られない革新的な進化が見られます。これら化学合成巻貝の共生, 生態および進化を解明するための研究を行います。

キーワード:化学合成生物, 深海底熱水噴出孔, 宿主の形態進化, 共生細菌の系統と代謝

 

4.  微生物によるマンガンクラスト・団塊の成因と有用元素濃集の研究

次世代の国産金属資源として注目されるマンガンクラスト・団塊は、深海底で非常にゆっくりとした速度で成長し、海水濃度が極めて低い有用金属を濃集しています。成因や元素濃集に微生物の影響は考慮されていませんでしたが, 近年の研究でクラストや団塊の表面に微生物が密集して, マンガン酸化物の形成や有用金属の濃集に関与していることが明らかになりつつあります。深海底から採取したクラストと団塊試料を用いて, 成因と元素濃集の謎を解き明かします。

キーワード:元素濃集, ナノ鉱物解析, 細胞レベルの微生物解析    

 

5.  放射性元素の長期間に渡る移動濃集プロセスの解明と鉱物に長期隔離する技術の開発

東濃ウラン鉱山の基盤を構成する花崗岩の亀裂を充填する炭酸塩鉱物中に, ウランのナノ粒子が100万年間封じ込められているのを発見しました。同様にセシウムボール大のガラ

スやセシウムを吸着する粘土鉱物も炭酸塩鉱物中に封じ込められることを明らかにし, 特許を出願しました。長期間に渡る放射性元素の移動濃集過程を理解し, 放射能汚染した環

境を浄化するための研究を行います。 

キーワード:放射能汚染, 環境浄化, 放射性廃棄物, バイオリメティエーション, ウラン鉱床の成因

 

6. 地下微生物によるカルシウム含有鉱物の形成過程と原位置における促進技術の研究

地面の下から少し深くなると, 地上付近の様に地面を固めて建物を作り経済活動を行うことが困難となります。また, 地滑り等の災害, 有害物質による汚染, 化石燃料資源を伴う地下に対して, 安価で安全に対策をとる技術は確立していません。その理由として, 地下環境や微生物の実態が不明で, 技術として利用するには知識が不足しているためです。炭酸カルシウムとリン酸カルシウム形成する微生物の活動を, 特に災害, 環境汚染, 資源と関連する地下で促進するための研究を行います。

キーワード:地盤改良, 資源回収, 環境浄化