世界最大のマグマ溜まりを掘り抜け!

―ブッシュフェルト複合岩体の大深度掘削による20億年前の原始生命探査―

国際陸上科学掘削計画(ICDPにより、20億年前に形成した地球上最大のマグマ溜り(注1)である、南アフリカのブッシュフェルト複合岩体が掘削されています。この巨大なマグマ溜まりは、地殻に貫入したマントル(注2)であり、現在の地球の地表ではめったに見られないものですが、生命誕生当時の地球では地表のどこにでも存在したと考えられています(写真1)。

写真1: マントル物質が露出しているBurgersfort近郊の露頭。岩石を割ると中に鉱物の光る結晶を多く含みます。
写真1: マントル物質が露出しているBurgersfort近郊の露頭。岩石を割ると中に鉱物の光る結晶を多く含みます。

ブッシュフェルト複合岩体は形成後の20億年間、変形や変性作用をほとんど被っておらず、マグマの冷却後から現在まで安定した原始生命の生息場と考えられます。厚さ8 kmにおよぶブッシュフェルト複合岩体の下部には、世界最大の白金族元素の埋蔵量を誇る地層(写真2)が、上方からの地下水の侵入を阻み、最下部には20億年に侵入した原始生命が現在までその子孫を残していると期待されます。

写真2: Steelpoort近郊の鉱山で採掘されている地層が見える露頭。黒色の層に白金族元素を多く含み、この平行な層は400 kmに渡り広がっています(北海道と同程度の広さ)。
写真2: Steelpoort近郊の鉱山で採掘されている地層が見える露頭。黒色の層に白金族元素を多く含み、この平行な層は400 kmに渡り広がっています(北海道と同程度の広さ)。

地下に生息する生き物は、1万年から100万年をかけて子孫を残すと言われており、1億年程度は全く進化しないことが証明されています。そこで本研究は、20億年前に生息した原始生命が20億年進化せずに存続しているかを明らかにすることを目的としています。進化せずに生存している場合は、20億年前の生き物を化石ではなく直接調べることが可能になり、生命誕生の謎を解き明かす重要な情報が新たに得られると期待されます。

BurgerfortにあるMarula鉱山で、2024年5月に掘削が開始され、7月15日現在で600メートルまでの掘削が行われています。鈴木研究室と国際共同研究チームは、微生物と同じ大きさの蛍光ビーズを用いて、掘削により生じる岩石コア試料の汚染と岩石内に生息する生き物を見分ける新たな手法の開発に成功しました(写真3)。

写真3: 掘削現場で掘削水のタンクに蛍光ビーズを添加している様子。研究に用いられた岩石コア試料外側の汚染が青色の光によって見ることができます。
写真3: 掘削現場で掘削水のタンクに蛍光ビーズを添加している様子。研究に用いられた岩石コア試料外側の汚染が青色の光によって見ることができます。

岩石コア試料の内部を調べるため、岩石を輪切りにして薄片を作成しました。赤外線を用いた分析装置により、岩石内の細脈からタンパク質が検出されました。その場所を顕微鏡で観察した結果、細胞内にDNAが含まれていることも確認されました(写真4)。これらの結果から、20億年前の岩石に微生物が生息していることが明らかとなりました。鉱物分析から細脈には水を結晶構造に含む粘土鉱物(注3)が存在し、岩の中で微生物の生活を支えていることも判明しました。

写真4: 岩石コア試料から作成された薄片中で観察された細脈にタンパク質と微生物細胞が分布する様子。緑の色で微生物細胞はDNA染色されています。
写真4: 岩石コア試料から作成された薄片中で観察された細脈にタンパク質と微生物細胞が分布する様子。緑の色で微生物細胞はDNA染色されています。

これまで生命の生息が確認された最古の岩石は、1億年前形成されたものだったという記録を、20億年前まで大幅に伸ばす成果であり、今後さらに古い岩石にも原始生命が生息することが期待されます。現在、発見したゲノムの解読を進めており、20億年前の原始生命の代謝や進化について実態が解明される予定です。

用語解説

(注1) マグマ溜まり: 火山のように溶岩が噴出せず、地下深くにおいてマグマが冷え固まったものです。

(注2) マントル: マントルは鉄を含む重い物質のため、軽い地殻はその上に浮いていると言われています。

 宝石のペリドットで知られるカンラン石を多く含み、地表で水と反応したことが生命誕生に重要な役割を果たしたと考えられています。

(注3) 水を結晶構造に含む粘土鉱物: スメクタイトと呼ばれる鉱物で生命の誕生に重要な役割を果たしたと考えられています。

論文情報

Suzuki, Y., Webb, S. J., Kouduka, M., Kobayashi, H., Castillo, J. H., Kallmeyer, J., Moganedi, K., Allwright, A. J., Klemd, R., Roelofse, F., Mapiloko, M., Hill, S. J., Ashwal, L. D., Trumbull, R. B. (2024) Subsurface microbial colonization at mineral-filled veins in 2-billion-year-old igneous rock from the Bushveld Complex, South Africa. bioRxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2024.07.08.602455

研究に関する問い合わせ先

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 

准教授 鈴木 庸平(すずき ようへい)

E-mail:yohey-suzuki(at mark)eps.s.u-tokyo.ac.jp

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